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神戸地方裁判所 昭和31年(ワ)216号 判決

原告 岡作太郎

被告 茂木鶴松

主文

被告は原告に対して金十三万九千六百八十四円及びこれに対する昭和三十一年四月二十七日以降右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払はねばならぬ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分しその一を原告その余を被告の負担とする。

この判決中原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事  実〈省略〉

理由

被告が原告の主張するとおりの業務を営むと共に右営業について訴外竹中重夫を雇傭し自動三輪車の運転に従事せしめていること、原告主張の日時場所において竹中の運転する自動三輪車と原告の乗用自転車とが接触しよつて原告が路上に転倒して第二腰推圧迫骨折の負傷をしたことは当事者間に争がなく成立について争のない乙第一号証(甲第四号証同一)と証人竹中重夫の証言並に原告本人訊問の結果を綜合すると原告は肩書住所においてすし屋営業をしている者であるが当日午後五時頃材料仕入のために自転車に乗りハンドルに買物籠を掛けて神戸市東尻池方面より市電西出町停留所に通じる道路を東進して西出町停留所の西方二十米位の街路分岐点より市電筋街路に出た上その北側の車道の歩道沿いの部分を通常速力で東進していたが偶々西出町停留所には電車が停車し且同停留所安全地帯の東端を出外れた歩道寄りの箇所には婦人二名が佇立している状況であつたので自転車の速力を緩めながら右方にハンドルを切つてこれを回避しようとしたこと一方前記竹中は原告の後方より原告と同一進路を二屯積自動三輪車を運転し時速十五粁乃至二十粁位で東進して来たのであるが自己の左側前方の歩道沿い部分には原告の自転車が進行しており且右箇所は市電停留所附近であつて電車の乗降右は待合のために人の佇立停滞するを常とする箇所であり又当時右停留所には電車が停車していたのであるから該箇所における自他の避譲行動は極めて窮屈であることを予知し従つてかゝる状況の下においては前行自転車の行動に格別の注意を払い全くその危険がないことを確めた場合の外はかゝる箇所において自転車を追越す等のことは厳にこれを慎むことを要し又たといこれを追越す場合においても極度に減速し且充分な間隔をおいてすべき注意義務があるにもかゝわらずかかる注意義務を怠り僅に警音器を一回吹鳴しただけで格別減速もせず折柄前述したように多少右側に出て来てあつた原告自転車をすれすれに追越そうとしその二屯積荷台(長さ約十尺位幅約五尺位)の後半が原告自転車と並行した頃にハンドルを右に切つたために荷台の後尾を若干左に振る結果となつて右荷台の後尾一尺位の箇所を原告に接触せしめて原告を路上に転倒させよつて前記の傷害をこうむらせた結果であることが認められ他に右の認定を左右する証拠はない。して見ると右は竹中が前記の注意義務を怠つた過失に起因する不法行為であることに疑の余地はなく証人竹中重夫の証言に徴すると右不法行為は原告方の業務の執行についてなされたものであることが明であるからその雇主である被告は原告が右の不法行為によつてこうむつた損害を賠償すべき義務がある。

そこで右損害額を考えて見るに原告が附添婦の雇入費用を含む入院治療費として金三万八千六百八十四円を支出したことは被告の認めて争はぬところであつて原告本人訊問の結果によると原告は右の外に退院後の治療費として金千円程度を支出していることが認められるから右合計金三万九千六百八十四円は原告がこうむつた有形の損害であるとせねばならぬ原告は右の外に一ヶ月間休業したことによる金七万円の損害があると主張するけれども原告本人訊問の結果によると原告は右負傷後一両日の間に適当な雇人を得て営業を継続し従つて特に休業による損害という程のものはなかつたのみならずその後間もない昭和三十年三月には軽度の中風症を発し従つて右雇人を置くことはたとい本件の負傷がなくともいづれは必要となる事態にあつたことが認められるから原告の右主張はこれを採用することができぬ。そこで慰藉料の点について考えて見るのに原告は前記負傷後間もなく軽度の中風症を発したことは前述したとおりであるために果して右負傷の結果如何なる症状を後遺したかを的確に判定することは困難であるとせねばならぬけれども原告本人訊問の結果によると右中風症状は主として左半身に止まるのであつて右半身には前記負傷の後遺症状たる運動機能障碍竝に手足の震えが存することを推認することができる一方原告は年令五十一歳、妻と二人暮しで二人の子供はいずれも独立世帯を営んでおり格別の資産はないがすし屋営業を営み月収五、六万円あること、他方証人茂木重野の証言竝に原告本人訊問の結果を綜合すると被告は本件事故後原告に対して治療費として金一万円程度を提供する意思があることを示しただけでその善後措置について格別の誠意も示さぬまゝ放置していたことがうかゞえる等本件に現れた一切の資料を綜合すると右不法行為によつて原告がこうむつた精神上の苦痛を慰藉するためには金十万円を相当とするものと認められる。

よつて被告に対して金二十三万円及びこれに対する本件訴状副本が被告に到達した日の翌日に当る昭和三十一年四月二十七日から右支払ずみに至る迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は前記治療費金三万九千六百八十四円及び慰藉料十万円以上合計金十三万九千六百八十四円及びこれに対する前同期間割合による遅延損害金の支払を求める範囲内において理由があるものとしてこれを認容しそのこれを超える部分は失当としてこれを棄却すべく訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十二条を仮執行の宣言について同法第百九十六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 河野春吉)

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